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最高裁判所第三小法廷 平成9年(オ)953号 判決 1999年3月09日

上告人

X1

上告人

朝銀奈良信用組合

右代表者代表理事

右両名訴訟代理人弁護士

宮﨑乾朗

板東秀明

田中英行

大石和夫

玉井健一郎

辰田昌弘

関聖

塩田慶

松並良

河野誠司

水越尚子

下河邊由香

被上告人

Y1

右訴訟代理人弁護士

三木俊博

右訴訟復代理人弁護士

影田清晴

長屋興

大東恭治

被上告人

Y2

被上告人

Y3

右両名訴訟代理人弁護士

影田清晴

長屋興

大東恭治

同訴訟復代理人弁護士

三木俊博

主文

一  原判決中被上告人らの上告人X1に対する更正登記手続請求及び上告人朝銀奈良信用組合に対する右更正登記手続についての承諾請求に関する部分を次のとおり変更する。

1  上告人X1は、第一審判決別紙物件目録一記載の各物件に関し、被上告人Y1に対しては持分二一分の七について、同Y2及び同Y3に対しては各持分二一分の四について、いずれも真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続をせよ。

2  上告人朝銀奈良信用組合は、被上告人らに対し、第一審判決別紙物件目録一記載の各物件について奈良地方法務局昭和五四年八月一五日受付第三一四二〇号をもってされた根抵当権設定登記を、上告人X1の持分についての根抵当権設定登記に改めるとの更正登記手続をせよ。

二  上告人X1の右登記手続請求以外の請求に関する上告を却下する。

三  訴訟の総費用は上告人らの負担とする。

理由

一  上告代理人宮﨑乾朗、同板東秀明、同田中英行、同大石和夫、同玉井健一郎、同辰田昌弘、同関聖、同塩田慶、同松並良、同河野誠司、同水越尚子、同下河邊由香の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事実に基づいて原判決の違法をいうものであって、採用することができない。

二  職権により、被上告人らの上告人X1に対する更正登記手続請求及び上告組合に対する右更正登記手続についての承諾請求について判断する。

1  原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。(1) 第一審判決別紙物件目録一記載の各物件(以下「本件物件」という。)は、昭和五四年当時、Bの所有に属するものであった。本件物件については、同年七月二六日受付により、同日売買を原因とするBから上告人X1に対する所有権移転登記がされている。しかし、実際には、Bと上告人X1との間には、本件物件について売買契約又は贈与契約は締結されていない。(2) 本件物件については、その後の昭和五四年八月一五日受付をもって、債務者を上告人X1、根抵当権者を上告組合、極度額を三〇〇〇万円などとする根抵当権設定登記がされている。(3) Bは、昭和五九年九月一一日に死亡し、相続及びその後の持分譲渡により、本件物件について、いずれも同人の子である上告人X1がその二一分の六の持分を、被上告人Y1が二一分の七の持分を、その余の被上告人らがそれぞれ二一分の四の持分を取得した。

2  本件において、被上告人らは、上告人X1に対しては、Bから上告人X1に対する右所有権移転登記について、これを昭和五九年九月一一日相続を原因とし同上告人及び被上告人らの各持分を右のとおりとする所有権移転登記に改めるとの更正登記手続をするよう求め、上告組合に対しては、右更正登記手続について承諾をするよう求めているところ、原審は、Bと上告人X1との間において売買契約又は贈与契約が締結された事実は認めらないとして、これらの請求を認容した。

3  しかし、被相続人の生存中に売買を原因として相続人の一人に対する所有権移転登記がされた場合、被相続人の死亡後に、右登記を相続を原因とするものに改めるとの更正登記手続をすることはできないものと解すべきである。けだし、右登記がされた当時被相続人は生存中で、同人につき相続が開始することがあり得ないのは明らかであり、右更正登記手続は、帰するところ、実体法上は生ずることのない物権変動を原因とする登記を行うものであって、これを認めることはできないからである。

4  しかしながら、記録によれば、本件において、被上告人らは、登記簿上は上告人X1の単独所有に係るものとして権利関係が表示されている本件物件につき、被上告人ら各自の現在の持分に応じて右表示を是正するよう求めているにほかならず、その請求が意図するところは、上告人X1に対する関係では被上告人ら各自の持分についての真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続を、上告組合に対する関係では本件物件全部についての根抵当権設定登記を上告人X1の持分についての根抵当権設定登記に改めるとの更正登記手続を、それぞれ求めていると解することができ、右各請求はいずれも理由があるものというべきである。したがって、原判決中上告人X1に対する更正登記手続請求及び上告組合に対する右更正登記手続についての承諾請求に関する部分は、主文第一項に記載のとおり変更すべきである。

なお、原判決中右登記手続請求以外の請求に関する部分について、上告人X1は上告理由を記載した書面を提出しないから、同上告人の右部分に関する上告は、不適法として却下することとする。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官園部逸夫 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣)

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